こんにちは。松隈です。
すっかり梅雨の季節となり、あのじめっとした、湿度の高い名古屋の夏がやってくる前兆を感じています。家に猫がいるのですが、猫がべったりくっついてくるのが少し煩わしくなる季節です。(笑)
さて、2021年度のMy Story Project(以下「MSP」)には、7名の中高生が参加し、半年間の個別型個性教育を受講しながら、自分らしいキャリアデザインに取り組みました。
幼少期から今に至るまでの過去をじっくり振り返ったり、自分が主催者となってイベントを企画・開催して様々な世代の方から意見をもらったり、元外交官や和菓子職人、精神保健福祉士の方など、自分が今関心のある領域で活躍されている社会人の方に一対一でインタビューする機会を設けたりしました。
その過程の中で、キャリアアンカーという、自分の進路選択の軸が見えてきて、その軸に基づいた、自分も活きて相手も活かすキャリアデザインを、3月19日に開催されたMSPフェスのプレゼン発表という形でまとめました。
そうして、2021年10月から2022年3月まで実施してきたMSPは、MSPフェスと3月末に行なった振り返り会をもって、2021年度のMSP1期は一区切りつきました。
MSPや私たちGrow&Leapが育んでいるものは、数値化することは難しいものだと思います。しかし今回はあえて、MSPの成果について「数字」を用いて見てみようと思います。
今回用いた尺度について
今回はMSPで個性教育を受講し始めた10月末と受講し終えた3月末の2回に分けて、MSP1期生の7名に、アンケートにご協力いただきました。アンケート内で用いた尺度は、法政大学キャリアデザイン学部で開発された『キャリア意識の発達に関する効果測定テスト Career Action-Vision Test(CAVT)』です。(*1)
大学生用に作成されている点に留意する必要はありますが、キャリア意識を測定するにあたり、研究ではよく用いられているようです。
質問項目は、以下のようなものです。
Actionは「将来に向けて、どのくらい熱心に積極的に行動を行っているか」について測り、Visionは「将来に向けたビジョンや夢、やりたいことなどをどのくらい明確にしているか、またそれに向けて準備しているか」について測定しています。
各項目について「全く当てはまらない(1点)」から「よく当てはまる(5点)」を付けてもらい、6~30点で評価しています。
結果
Vision・Actionともに、どちらも6か月間で伸びていました!
特にActionの伸びは著しいものがありますよね。
Actionは変化が大きかった
もう少し細かく見ていきましょう。
まずは変化の大きかったActionに関してです。
3月末に実施した振り返り会での受講生の振り返りコメントを訊いてみると、よく出てきたことは「社会人インタビュー(キャリアリサーチ)」と「イベント企画」でした。どちらも、受講生の主体性が求められやすい上に、目に見える形で実践するものです。
このような実践の場が今回の結果に直結していると考えられます。
一方で留意しておきたいことがあります。
それは、中高生が完全に「自分で動けるようになった!」というわけではないことです。
中高生たちは確かにパワーはありますが、私たちはもちろんのこと、家庭や学校も含めた周囲の支えなしに、簡単に動いていけるわけではありません。継続的に温かく支えてもらう中で、自分を磨き、その真価を発揮できるようになるのです。
だからこそ、共感を集めていきながら、GL中高生サポーターを中心に社会全体で持続的に中高生を支えていくことができるように整えていく必要があると感じます。
Visionが伸びきらなかった要因は?
さて反対にVisionです。
「中高生の自分らしいキャリアデザインを応援する」MSPであるにも関わらず、あまり大きな伸びは見られませんでした。この要因としては以下の2つのことが考えられます。
第一に「将来を描くステージに時間を割ききれなかった」ことです。
MSP初年度ということもあり、私たちもペース配分などについては特に手探りなところもありました。中高生一人ひとりの「個性(感じたこと、考えたこと)」に紐づくキャリアアンカーをじっくり丁寧に探し、受講生自身がはっきり認識するところに時間をかけていたため、将来を描くところにしっかり時間を作ることができない子たちもいました。
したがって、今後の継続的なフォローアップが必要な側面だと感じています。
また1~6月にかけてMSP2期に向け、MSPのスケジュールの見直しと個性教育の体系化を漸進的に進めてきましたので、パワーアップした形で実施していけるようになっています!
第二に「受講生の認識が新しくなった」ことです。
これは「自分と向き合い、将来について真剣に考えてみたからこそ、自分の足りなさも認識し、数値上では大きな伸びには至らなかったのではないか」という推察です。
個人的には、この影響はかなり大きいんじゃないかと思っています。
例えば、日本に来たことのない外国人の方が「和食は美味しくないから好きじゃない」と言ったとしても、それは日本の美味しい和食を食べたことがないから言っている可能性が高いですよね。知らないからそのように言っているんです。
それと同じく、
中高生の世界でキャリアデザインは本当に浸透していないと思います(だからこそ、今回挑戦してくれた7名の中高生が踏み出してくれた一歩に私は感謝していますし、本当に希望の星だと思っています)。将来のことをちゃんと訊かれることすらあまりないかもしれません。
そうすると、事前のアンケートのタイミングで、高い数値が出ていることも合点がいきます。
しかし、実際に訊かれたり考えてみたり動いてみたりすると、自分の将来像が曖昧であることは、嫌でも気付きます。そのように自己認識が新しくなったことで「まだまだ足りない!」という感覚が芽生えたことも影響しているのではないかと考えています。
数字から言える、MSPの成果
「中高生の段階でキャリアを描くことに何の意味があるのか」
「今ここで描いてしまうことで、可能性を狭めていないのか」
「社会に出てみないとわからないから、今は描けない」
大学生や社会人の方から、そういう声を耳にしたことがあります。
確かに中高生はまだ、木の芽が生えてきた段階です。
その木がどのような姿かたちになるのかは、誰も知りません。
自分のキャリアを描こうとしてみたからこそ、
自分で動いて自己効力感も生まれるし、
自分の将来像が曖昧であることに気付き、足りなさも感じるのではないでしょうか。
それを届けられただけでも、キャリアデザインの一歩としては大きな一歩だと私は思います。
【備考】
*1 この尺度は、キャリア発達研究における自己効力感理論(「自分はうまくやれるという感覚=自己効力感」を持っていることが実際の行動や遂行結果と密接に関連する)やパーソナリティ研究におけるライフタスク理論(日常生活でどのような目標を持ち、何に力を注いでいるかに、本人の特徴が現れる)などをベースに作成されています。