キャリア教育NPO法人 Grow & Leap

【考えてみる】メンターが普段行なっている「知ること/きくこと」

こんにちは、松隈です。
3期My Story Project(愛称「MSP」)もそろそろ終盤を迎える時期になりました。

3期MSPは、新たに5人のメンターが加わって実施するようになりました。5人のメンターは、多くの研修を受けながら、今回メンターとして活躍してくれています。

マイビジョン研修
MSP開始前に実施。MSPのエッセンスを詰め込んだプログラムを約2か月半かけて受講し、自分自身のビジョンを考えたり、MSPの受講の疑似体験をしたりするもの。

スキルアップ研修
MSP開始前やMSP期間中に実施。メンターとして必要なスキルをワークショップ形式で取り組みながら学ぶもの。

ステップアップ研修
MSPと並行して実施。自分のキャリアにおいて、メンターがどのような意味があるのか検討して目標を設定したり、その目標に向けた取り組みを振り返ったりするもの。

ロールプレイ
MSP開始前に実施。実際にメンターとして個性教育を疑似提供し、先輩メンターから客観的な意見をもらうもの。

スキルアップ研修では「中高生が自分の中にある個性に気づき、認められるようになる」ために必要な3つの力として「傾聴力・質問力・分解力」を重点的にトレーニングしました。これらの力が合わさってこそ、メンターが中高生ときちんと出会い、中高生のことをよく知っていくことができると私は考えています。

 

メンターは中高生の人生や経験を追体験をする

自分と向き合ったり、キャリアを一緒に考えたりするにしても、まずは中高生本人のことを知らずにできることはありません。では、どのように中高生のことを私たちは知るのでしょうか?

そこで大事なことは、やはり「きくこと」です。
傾聴というと、とりあえず「うんうん」と肯定的に受け止めることが大事だとか、相手の言葉を繰り返したり(オウム返し)、しぐさや声のトーンを相手に合わせたり(ミラーリング)することが大事だとか言われることもあります。もちろん、そういったことも大切なことですが、実はむしろ、もっと能動的な作業だと思っています。

例えば、中高生が「今回の期末テスト、悪かったんだよね…」と少ししょんぼりした様子で言ってきたとします。きっと悔しかったり、悲しかったりするんだろうというのは想像できますが、その想像だけで『悔しいね』と声をかけることはあまりしません。

前回70点で悔しい思いをしたから、今回は90点を目標に、数か月前から期末テストのために毎日3時間熱心に勉強をしてきたけど、同じく70点で「今回の期末テスト、悪かったんだよね…」

普段50点以上は取るけど、いつも通り一夜漬けで臨んだら今回は43点で、さすがにお母さんに怒られてしまうかもしれないと思った「今回の期末テスト、悪かったんだよね…」
では、同じ言葉であったとしても、その背景にある気持ちは異なります。

どのくらい勉強してきたのか、目標の点数は何点だったのか、実際の点数は何点なのか、その点数を見てどのように感じたのか…などなど、その中高生が置かれている状況や環境、出来事の過程、価値観や感情など、様々な視点からきいてみないと、その言葉の真意はわからないのです。
だから、「きくこと」は耳を傾けることであり(聴く)、質問すること(訊く)であると思っています。

そのような対話を重ねながら、メンターは中高生の人生や経験を追体験します。そうすると、その中高生が何を大事にしているのか、どういう世界と感覚で過ごしているのか、目の前の中高生のそういった世界観や価値観、感覚が少しずつ理解できるようになります。

 

分かってもらえた!という感覚は、中高生を育てる

実際、アメリカの臨床心理学者で、カウンセリングの基礎を築いたカール・ロジャースは、傾聴の3原則として以下のものを挙げています。

共感的理解(empathic understanding)
相手の気持ちや考えを、相手の立場で共感・理解し、あたかもその人自身であるかのように感じ取っていること

無条件の肯定的関心(unconditional positive regard)
自分の価値観や好みを押し付けたり、やみくもに否定したりすることなく、相手をありのまま受け入れ、その思いや考えの背景に関心を持つ態度

自己一致(congruence)
自分のありのままの気持ちや感覚も大切にし、きちんと認識して受け入れていること

「あたかもその人自身であるかのように感じ取る」、これはすごく難しいことです。ただ質問していくだけではできません。
メンター自身も色々ききながら、ああだろうかこうだろうかと想像してみて、「こういうことかな?」ってききながら、少しずつすり合わせていきます。この時に、メンターが一方的に断定しないことがとても大事です。

こうかな?と想像することは、時には80%くらい的を射ているときもあるけれど、30%くらいしか合っていないこともあります。でもそれはまた真摯に向き合ってきいてみたらいい話で、むしろ、分かった気になることの方がずっと恐ろしいです。

このように「きくこと」を通して、メンターが中高生ときちんと出会い、知っていくと、中高生は「分かってもらえた!」という感覚を持てたり、メンターを介しながら「ああ、自分ってこんなところもあるんだな」と、自分自身の思考や感性、価値観を知る機会になったりします。
この感覚や機会こそ、思春期真っ只中の中高生にとって、とっても大事なものではないでしょうか?


保護者でも先生でも、友達でもない人、メンター

今回、メンターが普段行なっている「知ること/きくこと」に注目して書いてみましたが、色々なことを振り返る中で、MSPフェスvol.2において、2期MSP生の保護者の方からこんな言葉をいただいたことを思い出しました。

自分を見つめることや、自分の言葉で気持ちを伝えたり説明すること、これは絶対家族じゃできないことだろうなと思っています。家族だと、話す方も聞く方も知っているという前提で話をしてしまうので、なかなか掘り下げるという行為には至らないのかなと思います。子どもを育てる過程において、転ぶと分かっている時には手を差し伸べてしまいますし、より良い結果を求めて意見をしてしまうこともあります。でも、GLの皆さんが前から手を差し伸べるわけでもなく、後ろから押すわけでもなく、常に伴走者として寄り添ってくださったおかげで、彼女は自分の力を信じてこの日を迎えることができたと思っています。(当時、中2の女子の保護者の方)
*一部抜粋

中高生にとってメンターは、約半年間、週に一度90分間、オンライン上で会うだけの存在です。生活を共にしているわけでもなければ、40人を一斉に見ているわけでもないし、毎日顔を合わせるわけでもありません。
でもだからこそ、じっくり「きくこと」ができるし、そういう存在でありたいと思います。

くまちゃん

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