キャリア教育NPO法人 Grow & Leap

【メンターインタビュー】思っているよりも、自分で自分の道を切り拓く力がある

今回は、My Story Project(愛称「MSP」)でメンターとして、1期MSPから活躍している有希さんに、活動の思いや有希さんから見た中高生の姿について、お話を伺いました。


週に一度、一対一で1時間半
じっくり話を聴いてくれる相手

ー初めに、簡単に自己紹介をお願いします。
有希です。岡山大学の医学部保健学科の4年生です。GLでキャリア教育をしてるのと、あとは医療系を目指す学生たちのサポートとかも、やっています。

ー医療系の学生が教育分野の活動もされていることは、そんなに多くない気がします。どのような経緯や想いで関わるようになったのですか?
最初に教育に興味を持ったのは、代表のくららさんに声をかけてもらって、GLの活動にちょっと関わらせてもらったところから始まっています。でも、実際自分が大学に通いながら「教育が一番必要なのって医療系じゃないの?」と思うようになりました。やっぱり人の命を扱う仕事だし、自分がどういう考えを持っていて、何を持って判断し、何を持って選択をするのかっていうのは結構大事な職業だと思うんです。でも、大学に通いながら、GLの活動していて「あ、大学ですら、全然教育足りてないな」って感じるところがありました。だから、医療を目指す学生の教育を将来やりたいなっていう思いも持ちながら、この活動をしてますね。

メンターとして活動する有希さん

ーそうなんですね。GLでは、どういうことをしていますか?
今は、メンターとして、中高生たちの6ヶ月間を伴走してます。色んな話を聞いて壁打ちの相手になってあげたりとか、一緒に色んなことを調べたりとか、そういうことが多いかなと思います。

ー有希さんは関わり始めてもう4年くらいですよね。GLのどういうところに魅力を感じていますか?
教育する立場から考えたら、何か与えるとか教えるとか、そういう風に最初はイメージしてたんです。でも、そうではなくて、その子自身が持っているものを引き出してあげて、本人が気づけるようにして、本人がなんか足りないって思ってるところも、ちょっといいなって思ってるところも、全部認めてあげながら、じゃあそれをどうやって輝かせようかっていう風に一緒にじっくり一対一で考えていけることが個人的には魅力だし、いいなと思ってるところです。

ーなるほど。GLの魅力と重なるところもあるかもしれませんが、MSPの魅力も何か別にあったりしますか?
まず一対一というところが大きいなと思っています。メンター自身も、中高生自身も、ある程度長い期間、週に一度、一対一で1時間半じっくり話を聴いてくれる相手がいることってなかなか普通のことではないと思います。でも大事なことだったりするんですよね。自分の話をじっくり聴きたいって思ってくれる人がいるってことが中高生にとっては魅力だし、私自身にとっても一緒に関係性を作りながら、その子のことを知っていって、一緒に考えていけるっていうのは魅力かなと思います。

1期MSPのメンターたち(有希さんは右端)


アクティブラーニング、
色んな視点から一緒に考えてみる

ーMSPでは、これまで何人くらいの中高生のメンターを担ってきましたか?
12人くらいですかね。

ーこのくらいの年齢層が多かったとかありますか?
割と高1から高3まで、幅広く担当したような気がしてるんですけど、うーん、意外と中学生が多かったかもしれないですね。割合的には、ちょっとだけ中学生が多いかもしれないです。

ーそうなんですね。実際に結構記憶に残っている回とか記憶に残っている子はいたりしますか?
アクティブラーニング(AL;中高生の関心に基づいて、ひとつのテーマについて一緒に探究してみる部門)とかは、結構記憶に残っていますね。私もかなり楽しんで、一緒にやらせてもらいました。例えば、黒人差別・人種差別をテーマにしてやった時は、ただ調べるだけじゃなくて、ちょっと動画とか事前に見つけて一緒に見て、ディスカッションしたりとか。幅広く色んな視点から見ることができたのは面白かったなと思って、よく憶えています。印象に残ってる子という意味では、大体こういう風にMSPってやっていくよねみたいなものがなんとなく見えてきた頃に、それ通りではなく、中高生から「今日はこれが話したい」とか「今日はこれがしたい」って提案してきてくれたんですよね。それで、じゃあそれやろうって言って、1時間半ずっと、「そうか、そうなんだ」ってただただ聴いていたら、彼女が最初モヤモヤしてたことも、最終的には「分かりました」って言うんです。私は何もしてないのに、すごい満足気にしていて。それはすごく印象に残ってますね。

ー前半にアクティブラーニング部門の話もちょっと出てきました。有希さんは、メンターの中でも、かなりの回数のアクティブラーニングを担当してきているそうですね。改めてどのようなことをしているのか、教えてもらってもいいですか?
アクティブラーニング部門は、中高生の興味のあることやもっとちゃんと知りたいなって思うことをより深掘って、自ら主体的に学んでいくっていうものです。具体的な内容としては、さっきも挙げた人種差別とか、死刑制度についてとか、薬害についてとか、そういう社会問題系が多いですかね。あと、面白かったのは青函トンネルについて扱った回ですね。青函トンネルは海の中を通っていますが、「海の中をなんであんなの通ってんの」みたいな話になったんです。それは、アクティブラーニングってこうやってやるんだよっていうデモみたいな意味合いも込めてやったんですけど、すごい面白い視点だなと思いました。アクティブラーニングは、なんでそうなってるんだろうってその子が気づいたこととか思ったこととか、その疑問を一緒に解決していくという内容になっていますね。

ーなるほど。その子の興味や関心に基づいて、一緒に探究していく感じなのですね。実際、アクティブラーニングを実施する時に、どういうところを大切にしていますか?
どうしても本とかインターネットとかで調べたり探すことになってしまうので、それを書いている人の考え方が反映されていたりしますよね。そういう時に、その意見に引っ張られてしまうところがどうしてもあるとは思うので、そういうところは気を付けますね。それから、一般的な常識で「人種差別ってダメだよね」っていう結論で終わっちゃって、終わりが見えちゃうような気がするんですけど、でもそうじゃなくて、逆に人種差別してる側の人ってどうだったんだろうとか、できるだけ意見が偏らないように、色んな視点から考えられるように促したり、問いかけてみたりするところは意識していますね。

 

自分が見つけた!
自分の言葉、自分の表現で話すことの重要性

ーMSP生とは、週1くらいのペースで約半年間会っていくわけですよね。何かその半年間で変化を感じる部分とかはありますか?
そうですね、変化を感じますね。どこに変化を感じるかは、MSP生それぞれですけど、一番分かりやすいところで言えば、最初はすごい緊張して硬い感じだったところから、緊張がほぐれていって信頼関係を築けるようになったのも変化だなと思います。その子自身が何かやりたいことが見つかったとかは分かりやすいですけど、自分で「こういうとこにも興味があるんだな」って興味が広がったり、何かひとつの答えに行きつかなかったとしも、自分で発見していけるようになったり、こういう風に探していたらいいんだなっていうのをなんとなく分かって、6ヶ月間を終えていってくれる姿を見ると変化を感じたりします。

ーやっぱり中高生によって、変化する部分が違うものですか?
そうですね。もともとのMSPを始める目的にも関わってきます。「何かやりたいことを見つけたい」って思う子がいたり、もう既に「これがやりたい」って思いがある中でMSPを受講し始めて、それがもっと具体的になったり、また別の何かを見つけたりするので、スタート地点とか、その子のMSPの目標みたいなものによっても、変化する部分は違うんじゃないかなと思います。

メンター同士で話し合う様子

ーMSP全体を通して、中高生に接する時に大切にしていることや大事にしようと思って意識してることは何ですか?
受講生が「自分が見つけた」とか、「自分が探した」とか、そういう風に思えるようにできたらいいなとは思っています。もちろん私も一緒に探していくし、一緒に見つけていく作業ではあるんですけど、「自分でできるんだな」「自分もちゃんとこうやって見つけられるんだな」っていう成功体験みたいな感覚が少しでもあったらいいなって思っていますね。なんかさせられたとか、なんかこういうプログラムだったからそうなったとか、そういう風にはならないように、できるだけ自分で探しながら、自分の言葉で表現できるようにしていくこと、それは意識しています。

ーなるほど。結構難しい部分だと思うのですが、何か工夫しているところはありますか?
もちろん、私から直接伝えてあげることもあるにはあるんですけど、一番大事なのは、MSPの過程を通して、自分が感じたことや得たものを自分の言葉で表現することだと思うんです。与えられた言葉とか、促されて言った言葉じゃなくて、自分の言葉、自分の表現で話すことによって、結局はそれが自分を表現する言葉になってくるんですよね。だから、直接的に、自分が見つけたんだとか、自分でこうやったんだ、ってはっきりとその子自身が感じ取れなかったとしても、自分の言葉で自分について話すことができた感覚は持ってもらいたいなと思っています。

 

本音で向き合いたい。
だからこそ、信頼関係

ーメンターをやりながら嬉しいなと感じる瞬間はどういう時にありますか?
嬉しい瞬間は、中高生が自分自身のこととか自分が興味があることについて、嬉しそうに話してくれる時は嬉しいなと思います。今の中高生って、結構何か社会問題とか、そういうトピックに関して意見を求められて、それに対して話をすることが得意な子は結構多いと思うんです。一方で、自分について語ったりとか、自分の好きなことについて語ったりすることって意外と苦手というか、あんまりしたことがない子が多いんじゃないかなっていう感覚があります。だからこそ、そういうことを自然と話してくれると嬉しいなと感じますね。

ー確かに社会課題についての自分の意見を書けとか、ディスカッションしろみたいなことはありますけど、自分について話す機会ってそんなに多くないですよね。逆に悩んだり、ちょっと難しさを感じたりする瞬間はありますか?
今の話の裏返しみたいな話になるんですけど、中高生の中には求められた答えを察してというか、こちらの様子を伺って、こうやって答えたらいいんだろうなみたいなことを、普段から悪気なく持っている子が中にはいるのかなと思っています。分かりやすく言うと、(人種差別について深く一緒に考えてみようとしたときに)「人種差別は当然ダメですよね」ってそういう、そりゃそうでしょうというか、当たり前の正解みたいなものを話してくれる子が時々いるんです。そうなると、自分の話をしてもらった時にも、ちゃんと本心から言えてるのかなって感じちゃうことがあります。だからこそ、まずは信頼関係を構築していきながら、その子が本音で話せる相手にならないといけないなっていう部分は、時々難しさを感じたりとかどうしようかなってちょっと悩んだりすることはあります。

キャリアリサーチ(社会人の方へのインタビュー)

ーここまでお話をお伺いしながら、「信頼関係」っていう言葉を結構大事にされている気がしました。何か信頼関係を築く上で大切にしていることはありますか?
MSPは全体を通して、その子が今まで経験してきたことをたくさん話してもらうプログラムになっているので、どうしても「その時どうしたの?」とか「それってどう思ったの?」という感じで、その子のことばっかり聴いてる感じになりがちなんですよね。自分をさらけ出さないといけないような感じに思っちゃう子もいるのかなって思っているので、私は要所要所で、自分の話もちゃんとするようにしてます。「私はこういう経験があって、こういう風に思って、こういうところに難しいって思ったんだよね」とか、そういう風に自分の体験も伝えます。中高生が開示してくれてる分、こちらも開示しながら、信頼関係を築いていけたらいいんじゃないかなっていう風には考えてます。

ーなるほど。一方で、何でもかんでも自分の話をすると、逆に自分語りの人だったり、ちょっとずれた話をすると逆になんか分かってもらえてないなという感覚になったりすることもありそうですよね。「要所要所で」というお話がありましたが、どういうポイントで話すイメージとかありますか?
確かに難しいは難しいんです。でも、中高生の様子を見たり、性格とかの感じが掴めてきたりする中で話しますね。例えば、ポロっと「こういうの難しいと思うんですよね」みたいなその子がなんか引っかかってる部分が出てきた時に、「私もこういう風になった経験があって、ここになんかちょっと引っかかったんだよね」とか、全く同じじゃなくても、自分がこういうところに引っかかってその時にこうやって考えたんだってことを伝えます。それで、また「どう思った?」ってその子に返すんです。そういう風にちょっと中高生が答えを出しにくそうになっている時とかに自分の話をしたり、逆に好きなものを話してて、共感する話があって、話すことももちろんあります。あまりにも私の話ばっかりにならないようにはもちろん意識しつつ、確かに私も考えたかもってなるようなタイミングとか、私は逆にこうかもなっていうことも、ちょっとした気づきがあるといいかもなって思った時にちょこっと小出しにして話すこともありますね。

ー先輩としてのアドバイスですよって感じではなく、自己開示を促したり、場合によってはちょっと斜め上から視点を与えたりするイメージですかね?
そうですね。アドバイスみたいにはならないようにっていうのは一番気を付けています。

 

一人の人として接する

ー冒頭で中1から高3まで割とまんべんなくやってきたというお話がありました。中学生と高校生で違いを感じることはありますか?
ありますね。もちろん、個人差はありますけど、ざっくり分けちゃうと、中学生はまだあんまり知らないことの方がなんか多くて「知る」っていう段階から必要なのかなと思います。なので、アクティブラーニングは、中学生の方が多い気がします。学校で色んなことを習うんだけど、じゃあもっと外に目向けてみたらどうなんだろうとか、そういう風に中学生とアクティブラーニングをやることが多いかもしれないって話していて今気がつきました。(笑)
高校生は大学受験もあるし、社会に出て自分がここからどうしていくかってことを考えざるを得ない時期に差しかかっている子が結構多かったりしますよね。だからこそ、高校生の場合は、割と自己分析チックなことだったりとか、私がひたすら聞き役に徹したりとか、そういう子が多いような気がしますね。

ーそうなんですね。今「気づいて」とおっしゃっていましたが、やっぱり「中学生だから」「高校生だから」というよりは、個別に見ている目の方が強いんですかね?
そうですね。本当に今の中学生の子たちと接していても、こんなに中学生って考えがしっかりしてるんだって思うくらいで、忘れちゃうというか、「あ、そっか、中1か」ってなることもあるんですよね。だから、あんまり年齢とかは意識していないような感じがしますね、本当に。一人の人として接するように心がけています

中高生やメンターの想いを入れて有希さんが作詞作曲した『私の進む道』をMSPフェスで歌う有希さん

 

「与える」教育から
「支える・伴走する」教育へ

ー1期と現在で、MSPや中高生に向かう視点や想いは変わりましたか?
1期の頃はまだ自分自身も手探り状態だったので、「なんか私がしてあげられることないかな」とか、「なんか得させてあげられることないかな」って感覚がどこかにありました。でも、1期、2期、3期と重ねてくる中で、私たちから何か得させようとか、気づかせようとかしなくても、ちょっとした機会を作ってあげたり、ちょっと違う視点を見せてあげるだけで、言い方悪いんですけど、勝手に学んだり気づいたりしていくんですよね。それって結局、自分の力で見つけたり気づいてるっていうことだと思うんですけど、10代って私たちが思っているよりも、ちゃんと自分で自分の道を切り拓いていく力は確かにあって、それを発揮する機会がなかっただけなのかなって思うようになりました。だから、学べる機会、知る機会とか、自分自身の考えを深められるような機会を、私がメンターとしてできる範囲で作るってことに、できるだけ意識を注いでいます。そこからどのように学んだり気づいたりするかは、その子の「個性」次第だなっていう風に思えるようになったので、そういう意識の変化は、私の中では一番大きかったんじゃないかなと思っています。

ー与える教育から支える・伴走する形になっていったんですね。ご自身はMSPを通して、変化や成長はありますか?
ありますね。私の大学4年間は、ほとんどの期間、GLに関わらせていただいて自分自身も色んな変化がありました。中高生たちが自己分析をしているのと同じように、自分も自己分析を個人でしながら、教育の重要性というか、GLでやっているキャリア教育・個性教育みたいなものの重要性をより強く感じるようになりました。
それから、何かしてあげるとか、与えてあげるとかっていう先ほどの話と重なりますが、将来医療の分野に進もうと思ってるので、そういう立場からしても、結構助けてあげようとか、直してあげようとか、なっちゃいがちだと思うんです。もちろん、実際に医療従事者が治療もするし、やるんですけど、でも結局患者さんの周りの人の支えとか、患者さん本人の頑張りとかがあって、病気も治っていくし怪我も良くなっていきます。そういう風に、教育と将来自分のフィールドにしようと思ってる医療の分野を重ねて見ていくことで、自分自身も成長していけたし、そういう意識を持てるようになったのは、GLに関わったことによる自分自身の変化かなと思いますね。

ー今日は色々なお話を聞かせてくださって、ありがとうございます。最後に、インタビューを終えて何か感じたことや考えたことがあったら教えてください。
今の自分もまだ何も到達はしてないですけど、今の自分があるのは、大学の初めにGLに関わらせていただいたことがすごく大きかったと思いますし、個人的にもコロナで大学に行けない中で、唯一会ってたのがオンライン上でのGLのメンバーだったので、大学生活この4年間を振り返っても、GLは欠かせないというか、いつも自分自身が関わらせてもらっていた大事な存在だなとも思います。とても感謝しています。

ー嬉しいですね。なんか卒業みたいな雰囲気が出ていますけど。(笑)
まだですけどね。(笑)

ーありがとうございました。

くまちゃん

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