キャリア教育NPO法人 Grow & Leap

文科省の「基礎的・汎用的能力」から捉えた!3期My Story Project

こんにちは。松隈です。
3期 My Story Project(愛称「MSP」)には、19名の中高生が参加し、2023年8月から2024年3月まで、それぞれのペースで自分らしいキャリアデザインに取り組みました。

前回は、3期MSP生のみんなにご回答いただいた評価アンケートをもとに、MSPの様子について振り返ってみましたが(前回の記事「3期生に聞いた!3期My Story Project評価アンケート結果」)、今回は数字を用いてMSPの成果を見てみたいと思います。

 

今回用いた尺度について

今回は、文部科学省の謳うキャリア教育の視点からMSPの評価をしてみようと思い、文部科学省がキャリア教育で育成すべき力だとしている「基礎的・汎用的能力」を用いてみました。
基礎的・汎用的能力は、内閣府「人間力」、経済産業省「社会人基礎力」、厚生労働省「就職基礎能力」なども踏まえながら、「分野や職種にかかわらず、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力」として掲げられたものです。①人間関係形成・社会形成能力、②自己理解・自己管理能力、③課題対応能力、④キャリアプランニング能力、の4つの能力によって構成されています。
*基礎的・汎用的能力について詳しくはこちら

今回は、2015年に浜銀総合研究所さんが実施している「高等学校普通科におけるキャリア教育の実践と生徒の変容の相関関係に関する調査研究」に掲載されていたものを使用しました。
*株式会社浜銀総合研究所 (2015). 高等学校普通科におけるキャリア教育の実践と生徒の変容の相関関係に関する調査研究 pp.17

人間関係形成・
社会形成能力
「相手の気持ちを考えて話をするようにしている」
「自分とはちがう考え方を持つ人のことも受けとめようとしている」
「意見はわかりやすく伝えるように意識している」
「ほかの人と一緒に何かをするときには、自分ができることは何かを考えて行動するようにしている」
「ほかの人と一緒に何かをするときには、周りの人と力を合わせるということを意識している」
「必要なときには、自分の意見をはっきり言うことができる」
自己理解・
自己管理能力
「自分が何に興味や関心があるのかわかっている」 
「身の回りのことは、できるだけ自分でしている」 
「必要なときには、苦手なことにもがんばって取り組むようにしている」 
「やるべきことがわかっているときには、ほかの人から指示される前に取り組むことができる」 
「気持ちが沈んでいるときなどであっても、しなければならないことにはきちんと取り組むことができる」
課題対応能力「わからないことがあったときには、自分からすすんで情報を集めることができる」
「何か問題がおきたときには、なぜそうなったかを考えるようにしている」 
「何か問題がおきたときには、どのようにしたらその問題が解決できるかを考えるようにしている」 
「何か問題がおきたときには、次に同じようなことがおきないよう工夫をするようにしている」 
「何かに取り組むときには、計画を立てて取り組むようにしている」 
「何かに取り組むときには、進め方や考え方がまちがっていないか、ふり返って考えるようにしている」
キャリアプランニング能力「勉強をすることの意味について自分なりの考えを持っている」 
「仕事をすることの意味について自分なりの考えを持っている」 
「世の中には、さまざまな働き方や生き方があることを理解している」 
「職業や働き方を選ぶ際に、どのように情報を調べればよいかわかっている」 
「将来の夢や目標が具体的になっている」 
「将来の夢や目標に向かって努力している」

この尺度をMSP開始前の8月、中間発表後の11月、そしてMSPフェス後の3月の計3回、3期MSP生たちに回答をお願いしました。各項目について「あてはまる(4点)」から「あてはまらない(1点)」で回答をつけてもらいました。各指標6項目なので、最小6点、最大24点です。
*算出方法などは、浜銀総合研究所さんの報告書を参考に作成しました。

 

自己理解・自己管理能力が大きく伸びた前半戦

さて、気になる結果を見てみようと思います。

全体として、どの能力も点数が伸びていますね(一応、t検定と効果量を見てみても、開始前とフェス後では、全て有意な差が見られました。笑)。
面白いなと思う点は、開始前と中間発表後の間(前半戦)と中間発表後とフェス後の間(後半戦)で、変化している部分が大きく違うことです。

MSPの前半戦は、自己探究として主に自己分析に取り組みます。メンターと一緒に、生まれてから現在に至るところまでの思い出を振り返ったり、才能や性格、感情体験から自分について捉えてみたりする時間を持ちます。2ヶ月程度じっくり時間をかけて、丁寧に自分の過去と現在を振り返り、自分の思考や感情、感性を見つめていきます。そして、中間発表では「自分について」というテーマでプレゼンをし合うため、それまでの自己分析を総合的に整理する機会にもなります。

一方、MSPの後半戦は、これまでの自己探究の土台の上に、何か一歩踏み出して具体的なアクションを起こしていくことを基本としています。例えば、3期MSPでは、舞台の演者からトレーナー、舞台監督さんまで様々な形で舞台と関わっている方にインタビューしてリアルな声を聞いたり、自分の生まれ故郷について改めて捉え直してみたり、国際問題について一緒に調べながらプチディスカッションをしてみたり、作詞作曲に挑戦してみたりしました。それぞれの思考や感性を大事にしながら、何かに挑戦していく機会としています。

中間発表会の様子

そのように考えると、前半戦において、自己理解・自己管理能力が特に大きく伸びているのは、やはりMSPの自己探究の賜物だと思います。実際、「自分の性格や、思考の性質・特徴がどんなルーツから来ているのか、自分の過去からよくわかった。」「自分について振り返ったことで今の自分を作っているのがなんなのか知るきっかけになった。」といった声もあります。

またMSPは「キャリアアンカー(キャリアに関する自分自身の志向や価値観に存在する一貫性)を見出すことができる」ことが大きな特徴の一つですが、それらを見出す過程の中で、自分の興味・関心も同時に整理されていきます。それがよく表れている部分として、自己理解・自己管理能力の下位項目を見てみると、「自分が何に興味や関心があるのかわかっている」が最も伸びていました(0.79ポイントアップ)。

ちなみに、自己理解・自己管理能力の下位項目で、唯一伸び悩んだのは「やるべきことがわかっているときには、ほかの人から指示される前に取り組むことができる」でした(0.19ポイントアップ)。やはり、気持ちをコントロールしながら、やるべきことに取り組むことは難しいことですよね(もしかしたら、周りの大人が先に『やったの?』って言っちゃうのかもしれませんが…!)。

 

実際に動いてみるからこそ多様に変化した後半戦

(再掲)

さて、後半戦では、キャリアプランニング能力と課題対応能力が顕著に伸びていて、人間関係形成・社会形成能力も多少伸びているようですね。

キャリアプランニング能力は、実際に動いてみた経験と、MSPの過程全体を統合しながら、最終発表の場であるMSPフェスに向けて準備していったことが大きく寄与していると考えています(集大成の様子はこちら)。
自分の思考や感性に基づいて何らかのアクションを起こし、情報や視点、経験を得たり、色々な価値観に触れたりする。そこで感じたことや考えたことを振り返りながら、また続けて動いてみる。それを繰り返しながら、自分のキャリアを描いていく。そのアウトプットはもちろん、自分らしいキャリアデザインそのものですが、その描いていく過程を通して、このように描いていくといいんだなということも体験的に得ているんだと思います。実際、下位項目では「将来の夢や目標が具体的になっている(1.02ポイントアップ)」、「職業や働き方を選ぶ際に、どのように情報を調べればよいかわかっている(0.80ポイントアップ)」の2つが顕著に伸びています。
おそらく前半戦は、自己分析がメインとなるので、キャリアをデザインしていくという意味では、実感が持てていない部分があるのでしょうね(本人が何をやっているのか認識できるように、改良の余地はありそうです!)。

MSPフェスで自分らしいキャリアデザインについてプレゼンする様子

続いて、課題対応能力も後半戦で顕著に伸びています。課題対応みたいなことをすることはあまり多くはないので、個人的には意外な結果でした(一週間の振り返りの中で、どうしたらもっとうまくできそうかについて、一緒に考えることもあるので、そういうのなのかなあ…とか想像していました)。
下位項目を見てみると全体的に微増していますが、特に大きく伸びているのは「何かに取り組むときには、進め方や考え方がまちがっていないか、ふり返って考えるようにしている」 でした(0.84ポイントアップ)。MSPは振り返って言葉にする機会が非常に多いので、そういうことが寄与しているのかもしれません。「今自分が何が本当に大切かを考えられるようになった。色んな選択肢がある中で、今自分が大事にしたいことはなんだろうって一人で考えられるようになった」という3期生の声もありました。そういう意味でも、進路だけでなく、色んなことを選択するときに、丁寧に向き合って考える力が養われているのではないでしょうか。

最後に、人間関係形成・社会形成能力です。一対一やグループなどで話す機会はたくさんあるので、個人的にはもう少し伸びてもいいのでは?と思わなくもないですが、MSPに参加している子のもともとのポテンシャルが高いので、こういう結果なのかなと思います(開始前の時点で、他の3能力と比較しても高いですよね)。
ここには、個別の受講も言語化することや相手に伝えるという意味で影響していると考えられますが、普段はなかなか会わない中高生同士や中高生と社会人の交流の機会が大きく影響していると思います。特に3期は「みんなでつくる、楽しい3期MSP」というスローガンで、MSPの運営コアメンバーが動いていたので、MSP部活動や秋まつり交流会、MSPフェス決起会など、様々な形で色んな人と話す機会を増やしてきました。このあたりは、手探りの中で3期MSPにおいて始めてみた部分でもあるので、今後の発展次第で、もっともっと伸ばすことができるかもしれません。

これは余談ですが、MSPフェスで下郡教授がGLについて「みんなでしあわせづくりをしている空間」と表現してくださったのですが、そういう意味でも、この能力はもっともっと伸ばしていけたらいいなと感じています。

秋まつり交流会の様子

最後に感想

今回は、文部科学省の「基礎的・汎用的能力」の視点から3期MSPについて考えてみました。
もともとある程度結果は出るだろうなーと思っていましたし、MSPの前半戦と後半戦の違いもあることは体感として持っていましたが、実際にこのように結果として見てみると、思った以上に如実な結果が出て嬉しい気持ちと興味深いなあという気持ちでした。(笑)

3度にわたって回答してくれた3期生の皆さま、ご協力ありがとうございました!

くまちゃん

Grow & Leap 常務理事・MSPメンター・事務局
大学院で臨床心理学を専攻、メインテーマは自尊感情と自己価値。一人ひとりが自分と向き合う中でよりよい在り方を見つけたり、社会の中で自分らしく生きることをサポートしたりしています!
(臨床心理士 有資格)

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